どっぐらんの裏側

今まで書いた物まとめたり、ちょっと長めの独り言呟いたり。※無断転載禁止

ifマギレコ03


 全てを失った後に、一人の女性と出会った。その人は、終わりを告げる死神にも似た人だった。
 ――こんにちは。
 化け物に襲われ泣きじゃくるやちよの前に降り立ったその人の、場違いな第一声はそれだった。襲い来る者達を光の壁で軽くいなし、差し伸べる手に少しの躊躇い。困り笑顔の彼女はやちよを抱えたまま楽々と化け物を倒し、それからこう言ったのだ。
 ――あなたは何に絶望したのかな?
 その日は、祖母の命の期限を聞かされた日だった。

続きを読む

ifマギレコ02

 

 ただひたすら想っていた相手を喪った時、同時に未来も失った気がしていた。命を捧げた願いは今となってはごみくず同然で、そこに少しの価値もない。いっそ死ねたら楽だろうに、志半ばで倒れた家族の事を思うとそれも出来ないままだ。神の存在を信じるわけではないが、自死して妹達と違う世界へ行くのも嫌だった。
 生きるために戦うのではなく、死なないために戦っている。あるいは諦めがつく程に強い相手を探しているのかもしれない。

続きを読む

ifマギレコ01

 

 全てを失った後に、一人の少女を拾った。それは、全ての始まりとなる少女だった。
「七海さん」
 そっと。驚かせないようにかけた声は、あまりに小さく吐息のようだ。いっそ届くかどうかもわからないくらいの声量は、自分でも笑えるくらい震えている。
「……なんですか」
「そろそろ帰った方がいいよ。もう夜も遅いから」
 こちり、こちり。壁にかかった時計から、規則的な音が響いていた。短信が十一を過ぎたそれをちらりと見上げ、笑顔で促せば不満そうな顔。
「もう、電車がない気がします」
「どうかな。ギリギリ終電には間に合うかも」
「そうだとしても、この時間に一人じゃ補導される」
「塾だったって言えば平気だよ」

続きを読む

姉妹02

 

 父親が再婚すると言い出した時、特別嫌な感情は抱かなかったように思う。とっくのとうに破綻しきった父子関係に他人が入ってくる事に、むしろ安心感すら覚えたくらいだったかもしれない。血の繋がった父親と言っても、別の人格を持っている以上他人でしかないのだ。まして異性で、やちよは多感な時期だった。恐る恐るといった具合に、どうかな、と尋ねられた時も、もう決めた事なんでしょ、と冷たい一言を返しただけ。その時父がどんな顔をしたのかだって知らない。やちよは終始、彼を見ようとはしなかったのだから。

続きを読む

姉妹01


「七海さん」
 呼ばれて、やちよは振り返った。教室の入り口に立っていたのは今年入ってきた新任教師で、名前を環いろはと言う。
「……ちょっといいかな?」
 放課後、窓際の席で読書を楽しみ、それから帰路につくのがやちよの日課だ。昨日から読み始めた文庫を読み終え、さて帰り支度を整えようかという時だった。
「なにか?」
 あまりにもタイミングが良すぎる。もしかしたら本を読み終えるまで待っていたのかもしれない。それか、何度もかけられたであろう声を自分が聞き逃したのか。どちらにせよ教室にいる生徒は一人だけで、彼女がやちよに用事があるのは明白だろう。
「進路希望のプリント、あなただけ出してないから」
「……ああ」

続きを読む

女主人とメイドの話01

 

 春が鼻先をくすぐった。
 重苦しいチャイムの音に、彼女は気だるく目を開く。くすぐったいと思ったのは窓から滑り込んだ桜の花びらで、もうそんな季節になったのかと目を細めた。
 花の終わり際はいつでも心を寂しくさせる。出会い別れたいくつかの命を思い出すから。

続きを読む

翼人05


 いろはが自身の立場を知ったのは、コロニーに入った次の年だった。まるで本当の姉を慕うようにやちよを追いかけるいろはを見て、大人達は少し焦ったのかもしれない。やちよが試験を受けている間に呼び出され、やや遠慮がちに説明を受けた。許嫁って知ってる? という言葉から始まった説明会は、血統書付とその妹について、そして番について、最終的には交尾についてまで及んだものだ。

続きを読む

翼人04


「ねえ、ちょっと相談したい事があるんだけど……」
 やちよが二十歳になってから数ヶ月経ったとある朝。今日も今日とて医務室で過ごしていた彼女が、不安そうにそう切り出した。

続きを読む

翼人03

 

 午後の日差しが、室内に濃い影を刻んでいた。薄く開けた窓から入ってくるのは、青い匂いをした穏やかな風。それに揺らされるカーテンはそよそよと、二人の部屋に柔らかな空気を運んでくれる。
「……どうしようかしら」

続きを読む