翼人
やちよが実家に帰ってしまった。
いろはが自身の立場を知ったのは、コロニーに入った次の年だった。まるで本当の姉を慕うようにやちよを追いかけるいろはを見て、大人達は少し焦ったのかもしれない。やちよが試験を受けている間に呼び出され、やや遠慮がちに説明を受けた。許嫁って知ってる?…
「ねえ、ちょっと相談したい事があるんだけど……」 やちよが二十歳になってから数ヶ月経ったとある朝。今日も今日とて医務室で過ごしていた彼女が、不安そうにそう切り出した。
午後の日差しが、室内に濃い影を刻んでいた。薄く開けた窓から入ってくるのは、青い匂いをした穏やかな風。それに揺らされるカーテンはそよそよと、二人の部屋に柔らかな空気を運んでくれる。「……どうしようかしら」
本格的な訓練が始まった。運動場の端から端までの往復飛行を続けている妹を眺めて、やちよは少し眉を下げる。
―背中がムズムズする、と言ったら、やちよが笑った。