どっぐらんの裏側

今まで書いた物まとめたり、ちょっと長めの独り言呟いたり。※無断転載禁止

姉妹02

 

 父親が再婚すると言い出した時、特別嫌な感情は抱かなかったように思う。とっくのとうに破綻しきった父子関係に他人が入ってくる事に、むしろ安心感すら覚えたくらいだったかもしれない。血の繋がった父親と言っても、別の人格を持っている以上他人でしかないのだ。まして異性で、やちよは多感な時期だった。恐る恐るといった具合に、どうかな、と尋ねられた時も、もう決めた事なんでしょ、と冷たい一言を返しただけ。その時父がどんな顔をしたのかだって知らない。やちよは終始、彼を見ようとはしなかったのだから。

 ……母が死んだのは、随分と小さい頃でよく覚えていない。その頃父は丁度中間職についたばかりで、殆ど家にはいなかった。朝はやちよが起きるよりも早く出かけて、夜もやちよが寝ついてから帰ってくる。祖母が面倒を見てくれていたから何とかなっていたが、やちよが父とまともに顔を合わせるのは月の内四日もあればいい方だった。そしてそうなってしまえば、当然のように心は離れていく。いつしかやちよにとって、父は親ではなく、月に数回顔を合わせる他人になっていったのだ。
 父がそれに気付いたのは、祖母の葬式の時だっただろう。やちよはそう推察している。黒い服を纏った男は自分の娘らしき少女を見下ろして、気まずくて仕方ないというような顔をしていた。
 その顔を見た瞬間、やちよは悟ったのだ。ああ、この人はあろう事か、今更自分の成長に気付いたのだ、と。彼の中のやちよは、きっと幼いままで止まっている。だから大人に足を踏み入れだした少女を見て、なんと言葉をかければいいのか迷っているのだ。無意味に上げられて結局力を失った手が、もはや二人は触れる事すら躊躇うような距離まで離れてしまったのだと教えてくれた。
「大丈夫よ、父さん。大丈夫。私の事は気にしないで」
 だからやちよはそう言った。それは実質的な、離別の言葉でもあったかもしれない。父はその言葉に酷く傷ついたような顔をして、けれど力無く微笑んで見せる。そうか、と呟いた声はやちよの知っているそれよりいくらも歳を重ね、大変に疲れ切った物で、その瞬間またやちよも愕然としたのだ。ああ、知らなかったのは自分も同じなのだ、と。
 そこからもう、二年。父の役職が上がった事で、家にいる時間が増えると気まずくて仕方なかった。だからやちよは部屋に籠る事が増えたし、父もそんなやちよに無理に歩み寄ろうとはしないまま。そんな風に冷めきった、家庭とも呼べない共同生活の穴。そこに他者が入ってくる。それはやちよにとって、ある種の救いにも思えたのだ。
 少なくとも、父の相手は新しいお母さんとやらがやってくれる。箸の音だけが響く冷たい食卓に、少しは色が戻ってくる。ただただそれに、ほっとした瞬間でもあったのかもしれない。

 そして。

 顔合わせの日。やけにきっちりした格好の父に連れられて小洒落たレストランにやってきたやちよは、ただただ呆然とする事になる。
「はじめまして。あなたがやちよさんね。よろしく」
「……よろしく、お願いします」
 父よりいくつか年上だろうか。柔和な笑顔の女性が、新しく母になる予定の人。それはいい。それはいいのだ。
「この子は娘のいろはです。やちよさんより五つ年上なんだけど、なんだかやちよさんの方が大人に見えるわね」
「もう、お母さん?」
 彼女の隣にいる、この少女は誰だろう。
 ちらりと父を見ると、さっと視線を逸らされた。脂汗の浮いた横顔には大きく「話し忘れていた」と書かれていて、ひくりと頬を引き攣らせる。
「えっと……やちよ、さん?」
「っ……はい!」
 その足を力一杯踏みつけてから、慌てて居住まいを正した。やちよの正面に腰かけた少女は少し困った顔で微笑んでいて、どこか気まずそうでもあっただろうか。
「あらためて、はじめまして。いろはと言います。これからは姉妹になるんだけど……えっと」
「……」
「その、無理に仲良くして欲しいとか、そんなことは言わないし、お姉ちゃんって呼んで欲しいなんて無理強いはしないし……あの」
「……」
「えと、とりあえず、よろしく……ね?」
 人の良さそうな笑顔だ。戸惑いを隠しきれないやちよに対して、必死に言葉を探す姿はある意味では優しいのかもしれない。
 けれど。
「……よろしくお願いします」
 やちよにとって、それはだいぶ不快で気味が悪く映ったのだ。
 この時、やちよ十三歳。いろは十八歳。中学一年生と、高校三年生の秋だった。

 

***

 

「……姉さん?」
 随分と懐かしい夢を見たようだ。とろりと目を開けた時、いろはは隣にいなかった。リビングに続く扉からうっすらと灯りが漏れているのを見止めると、やちよは不機嫌そうに唇を捻じ曲げる。横たわっていたベッドから気だるく体を起こすと、裸足の足をぺたりと床に下ろした。そして少しだけ目を擦ると、服も纏わずにドアノブに手をかける。
「姉さん」
「……やちよ? わひっ!?」
 テーブルで何やら書き物をしていたいろはは、呼びかけに顔を上げたところで素っ頓狂な声を上げた。それもそのはず。寝室から顔を出した妹は一糸纏わぬあられもない姿だったのだから。
「な、な、な……」
「何して」
「なんで裸なの!」
 やちよの言葉を遮って、高い怒声が飛ぶ。それにぱちりと瞬きをした妹は、自分の体を見下ろしてから面倒くさそうな顔をした。
「さっきまでえっちしてたんだから当たり前じゃない」
「そ、うだけどそうじゃなくて」
「むしろ姉さんはどうしてしっかり服を着てるの?」
「は、裸で仕事してたらおかしいでしょ?」
「そうね。だから……なんで仕事をしてるのかって聞いてるのよ」
「……っあ、えっと……えーっと」
 ドア枠に体を預け、腕を組むやちよは無表情だ。白く透き通った肌を惜しげもなく晒し、けれどいやらしい雰囲気など微塵もない。それどころかその目から感じるのは明確な怒りで、いろはは気まずく視線を逸らす。
「この休日は仕事をしないって約束だった」
「……ごめん」
 そもそも最近、姉はオーバーワークに過ぎているのだ。受け持った生徒たちのテストの結果があまりよくなかったせいか、休日の度にあれこれと授業の内容について考えている。試行錯誤を重ねたらしいノートは真っ黒で、その努力がありありとうかがえた。
 けれどやちよは思うのだ。結局のところ、やるやらないは本人のやる気の問題で、教師がどんなに努力したところで寝ている奴は寝ているし、携帯を弄っている奴は携帯を弄っている。いろはがいくら根を詰めたところで、本人達がその気にならなければどうしようもないのだ。
「というか、どうして普通に仕事ができているの?」
「……え?」
「大分疲れさせたつもりだったんだけど」
「……」
 不機嫌そうなやちよの言葉に、いろははひくりと頬を引き攣らせる。ぎぎぎ、と視線を逸らした彼女はあからさまに何かを隠している様子で、やちよはもっと剣呑な表情になった。
「もしかして……演技してた?」
「……」
「沈黙は肯定と取るわよ」
 正確には演技ではないのだが、演技はなかったと断言するには多少無理がある。最後に多少嘘をついたというか……うん。
 今日……日付的には昨日の夜、ご機嫌なやちよによってベッドに縫い止められたいろはは、二ヶ月分の鬱憤を晴らすかのように散々弄ばれた。久しぶりの快楽はあまりにも強く重く、あっという間にいろはを埋め尽くしてしまう。熱い手のひらが思い付く限りの性感帯を撫で、やちよの吐息一つで簡単に体が跳ねた。悲鳴も体の痙攣も止まる事はなく、あまりに強い刺激に生理的な涙が溢れたくらいだ。あの感じ方に嘘はない。
 嘘があったのは、何回目かの絶頂を迎えた後。眠い? と聞かれて素直に頷いた事だ。本当はまだ少し足りなかったし、久しぶりだった分いろはも空腹だった。やちよが枯渇していて心はよだれを垂らしたままだったけれど、それでもその瞬間に仕事の事が脳裏を過ぎってしまったのだ。
 人にはそれぞれ得手不得手がある。いろはのように勉強そのものが楽しくてそれを仕事にする者もいれば、勉強という行為自体を生理的に受け付けない人間もいるのだ。けれどたとえ嫌いだったとしても、それを少しでも楽しく教えてやるのが教師の仕事だと思う。学校で学ぶ事が社会に出てから必要かどうかという質問は、はっきり言ってお門違いだ。勉強は夢を守るためにある。知識が多ければそれだけ窓は開けるのだ。人は生まれ落ちた瞬間から全ての世界に繋がっているというのに、窓もカーテンも閉め切ってそれを錆びつかせてしまうのは勿体ない。いざ夢を見たくて閉ざし続けた窓を開こうとした時、まずは錆を落とす所から始めなければいけなくなるのは、あまりにも大変だろう。窓を開け可能性という名の部屋に風を通し、それが錆びつかないように油を差してやるのが学びだ。苦労と思うけれど、面倒と思うけれど、それをするだけで世界は広がる。ならば苦手だ嫌いだという可能性の芽に、楽しさを教えてやるのが教師の仕事だと思うのだ。
「真面目なのは知ってる。姉さんの授業は楽しいし、わかりやすい。でもね、怖い顔じゃ楽しさも伝わらないわ」
「……うん」
 やちよは少し眉を下げ、けれど問答無用でノートを閉じた。そしていろはの手を引くと、少し強引に寝室へ引きずっていく。
「や、やちよ?」
「なんで裸なのって聞いたわよね。教えてあげる」
 ぐっと強く腕を引いた拍子に、いろはの肩からパーカーが滑り落ちた。それを拾う事も許さずに、整った顔がにやりと獰猛な笑みを浮かべる。
「今すぐいろはを抱くからよ」
「っ……ん、ちょ、あっ」
 いつのまにか腰に回っていた手が、するりと寝間着の中に滑り込んだ。無遠慮に臀部を撫でまわす熱い手のひらに、先程の情事の燃えカスがぼうと赤く熱を持つ。
「あっ、あぁ……いやぁ……っ」
「まだとろとろね」
 ぐっと深く差し込まれた手が、躊躇いもなく秘部を割った。後ろから指を滑らせたやちよは容赦なく中指を膣に沈め、嫣然と微笑んで見せる。腕を掴んでいた手が強く腰を抱くと、いろはは何だか何もかもがどうでもよくなってしまった。
「やちよぉ……っ」
「っは……その顔、最高」
 五つも年下の妹の首に腕を回すと、キスをねだって目を閉じる。すぐに応えてくれたやちよは、すでに熱に浮かされて欲情しきった顔をしていた。
(かわいい……)
 いろはに夢中になった彼女は、瞳を潤ませて頬を染め、普段よりいくらも幼く見える。獰猛な肉食獣のように乱暴に、若い欲望を叩き付けてくるくせに、そこかしこに触れたがる姿はやっと親を見つけた迷子を思わせもした。
(かわいいこ)
 ベッドまでのたった数歩も我慢できずにいろはを壁に押し付けて、やちよの手が乱暴に服を脱がせていく。そして全て脱がしきる事すら諦めて下着が引っかかったままの片足を持ち上げると、次の瞬間には強引に二本の指が秘裂を割った。
「あぁ……っ、ん、やちよ、やちよ……っ」
「ねえさん、いろは……っ」
 手のひら全体でいろはの秘部を揉むように、やちよが性急な愛撫を繰り返す。必死になって姉の唇を吸い、舌を絡めては苦しそうな顔をする彼女に余裕はなかった。
(かわいい、やちよ)
 出会った時からやけに大人びていて、高校生になる頃には身長もいろはより高くなっていた。どこか人を見放したような冷たい表情を浮かべる事の多い少女が、戸籍上の姉に欲望をぶつけながらこんな顔をするのだ。それがいろはには、嬉しくて仕方ない。
「やちよ、やちよ……っかわいい」
「いろはの方がかわいい。かわいい……っいろは。ねえさん、好き。好きよ……っ」
 まるで自分が愛撫を受けているかのように息を乱し、紅潮した頬が嬉しそうに緩む。わざとぐちゃぐちゃと音を立てながらいろはの中を掻き乱し、やちよはぶるりと体を震わせた。
「っねえさん、ねえさん……きれい、かわいい……っねえさん、いろは……っ」
「……っふふ」
 乱暴に中を抉られながら、いろははうっとりとした微笑みを浮かべる。うわ言のように自分を呼んで、恍惚と瞳を潤ませる妹が可愛くて仕方ないのだ。完璧に整い冷たくも見える面差しを緩ませて、いろはを見つめ続けるやちよが愛おしくて仕方ない。
「もっと……っやちよ、もっと乱暴にして……っ」
「……っいいの?」
「い、いよ。あっ、ん……もっとして、もっと……っめちゃくちゃにして……っ」
「いろはぁ……っ」
 懇願に、やちよはもっと苦しそうな顔をした。一瞬躊躇うような表情を見せて、けれどすぐに一度指が引き抜かれる。そして次の瞬間には、四本の指が、再度。そして強引にいろはの胎内に侵入した。
「っは……っあぁ!」
「いろは、いろは……っ」
 立ったままなので、どうしても腹部に力が入る。普段よりも締まりの強い膣内に、四本はいくらか圧迫感が強かった。けれどいろはは懸命に息を吐いて、やちよの指を受け入れる。
「っいたく、ない?」
「へ、き……うごいてっ……めちゃくちゃに、して?」
「っっ……」
 とろりと蕩けた色素の薄い瞳には、やちよだけが映っていた。自ら腰を押し付けてくるいろはに鋭く息を呑んで、やちよはうるりと目を潤ませる。
「……っやちよ」
「いろは……っあ」
 首に回っていた腕の片方が解け、それがやちよの裸体を撫でた。甘えるように妹の肩に顔を埋め、いろはの指先がやちよの足の間に滑り込む。そのままくっと先端を曲げて、指の腹が固く尖った部分に引っ掛かった。
「こう、しててあげる。やちよも……いきたいでしょ?」
「……っいろはぁ」
「いいこ。前に教えた通りに、して?」
 そのまま微笑む姿は挑発的で、抱かれているはずなのにどこか余裕がある。それが五つの歳の差から来るものなのだとわかると、やちよは少し泣きたくなった。
「ほら、やちよ。男の子みたいに、腰、ふってごらん?」
「っ……いろはぁ……っ」
 いろはの中に沈めた手の位置を調整し、恥骨の辺りで押すように。そして緩く腰を振り始めれば、固く尖って充血したそこが、いろはの指の上でつるつる滑った。
「あっ、あっ……いろは、いろ、は……っ!」
「んっ、ふふ、きもち、い?」
「ん、きもちいい、きもちいい……っ!」
 腰を前後させる度に、姉が押し付ける力を強くする。たまに指の腹にひっかかって僅かに被った皮が剥ければ、突き刺すような刺激で腰が跳ねた。
「あ、あん……っ、ねえさ、いろはぁ……っ」
「はっ、あ、あぁ……んっ、もっと、もっとらんぼうにして。だい、じょぶだから……っ」
「ねえさん……っ」
 もっと刺激をと自然早くなる腰の動きを、やちよは必死になって押し留めようとする。それに目敏く気付いたいろははすぐにそう言って、抱え上げられていた足で細い腰を引き寄せた。
「っっも、ばかぁ……っ!!」
 その動きと同時に強く揺さぶられて、やちよの瞳からついに涙が零れ落ちる。一度強く瞑られた目は開かれた時には理性を手放していて、ただ若く青く熱い欲望一色に染まりきっていた。
「ねえさん、いろは……っいろは!」
「あっ、あぁっ、あん、あ、やちよぉ……っ」
 刺激を求め、快楽を求め、必死になって腰を振る。いろはの指で自身の性感帯を刺激しながら、赴くままに腰を回す姿はただただ卑猥だった。
「あ、んっ……! あぁ……っ!!」
 切なげに眉を寄せ、どんどん腰の動きが激しくなる。その分手を押し出す力も強くなり、やちよの指先が、どん、と最奥部を抉ると鳥肌が立った。
「やちよ……っきもち、い……っ」
 貪欲に彼女を求め、とろりと下がる子宮口。それを乱暴に突き戻されながら、いろはも腰を押し付ける。やちよの動きに合わせて前後に揺れながら、腹部を埋めていく重い快感に掠れた悲鳴が零れ落ちた。
「ねえさ、ねえさん……っいきそ……っ!」
「いいよ……っいって、わたしも、も……っ」
 ぎゅ、ぎゅ、とやちよの指を締めつけながら、いろはは震えて熱い溜息を吐く。床についた片足が震え、指先がぐっと丸まると胎内で重く強い絶頂の予感がした。
「あっ、あっ、やちよ、やちよ……っ、ごめ、さきに、いっちゃ……っ!」
「いろは……っいって……っ!」
 妹の首に回した腕で、腰に回した足でその体を引き寄せて、乱暴に唇を重ねる。彼女の舌をねだって口を開けると、すぐに求めた熱が口内を蹂躙してくれた。
「んっ……んんっっ……んんんん――っ!!」
 そしてその瞬間、いろはの意識がやちよ一色で染まりきる。胎内が痛いくらいに収縮して、その心地良さで全身がびくりと大きく痙攣した。その衝撃から、やちよの秘部に当てていた手に力が入る。押し潰すような刺激に彼女も堪らず喉を反らした。
「んっ、ぷぁっ、いろは、わたしも、わたしも……っ」
「やちよ……っ」
「ん、あぁっ……んんんっ!」
 思わず口を離したやちよを許さずに、先程よりもっと強引に唇を合わせる。自身も絶頂による痙攣を繰り返しながら、震える体を必死になって抱きすくめた。そしてその悲鳴すらも呑み込んで、快楽と恍惚からうっとりと目を細める。
(……かわいい。もっと欲しい)
 いろはの指先に、熱い体液が触れた。絶頂によって新たに分泌されたそれをゆるゆると塗り広げてやりながら、どんどん昂っていく熱を持て余している。
 久しぶりなのはいろはも同じ。むしろやちよよりもストレスを溜めていた分、性交による発散は麻薬のような多幸感をもたらしていた。今までなら事足りていたはずなのに、今夜は全く満足できそうにない。
「……火をつけたのは、やちよだから」
「……え?」
 自身の胎内から乱暴にやちよの指を引き抜くと、絡めていた手足を解く。そしていろはの体液でべたべたになった手を引いて、彼女の体をベッドに突き飛ばした。
「っ、ねえさん……っ?」
「せっかく我慢できてたのに……もう、無理だもん。本当にめちゃくちゃにしてくれるまで、満足なんてできないよ……」
「……っ」
「入れて。犯して。やちよ以外、なにもわからなく、して」
「っっ……いろは!」
 そして妹の体に馬乗りになると、濡れたままの指を自らの手で支え、ゆっくりと腰を落としていく。少し冷えてしまった指を飲み込みながら、腰を反らす姿は扇情的だった。
「やちよ……っおねがい……」
「っは……もう、もう……っ」
 五つも年上の姉が、まだ子供な自分を求めて腰を揺らす。その姿だけでやちよはいくらでも興奮するし、ただただ言い表しようもない幸せを感じるのだ。
 あまり良くなかった第一印象とは裏腹に、二人は今こうして体を重ねている。恋人として互いを想い、全てを求めて必死になっている。人生何が起こるかわからないものだなと、今日何度目かの熱に溺れながらやちよは思うのだ。
「なに、かんがえてるの……?」
「……いろはのこと」
「……ふうん?」
「ごめん。集中する」
「うん。そうしてくれなきゃいやだよ」
「っ……うん」
 けれど今は、過去を振り返るのはやめておこう。大人なようで意外と独占欲が強い恋人に、へそを曲げられてしまってはかなわない。空いた手を柔らかな肌に伸ばしながら、今はただ、うっとりと目を細めた。